相続の相談をしていると、多くのオーナー様が気にされるのは相続税です。
「どれくらい税金がかかるのか」「子どもにどう引き継ぐのか」「節税対策は何をすればいいのか」 もちろん、これらは大切なテーマです。
しかし、私たちがオーナー様とお話しする中で、実は相続税以上に心配していただきたい問題があります。それが、【認知症】です。
近年、アパートオーナーの高齢化が進み、認知症に関する相談も増えています。そして厄介なのは、相続はいつか必ず起きることが分かっているのに対し、認知症はいつ訪れるか分からないということです。
しかし、ひとたび認知症になれば、アパート経営そのものに大きな影響を与える可能性があります。
認知症になると契約行為ができなくなる
認知症で最も重要なのは、「判断能力を失うと契約行為ができなくなる」という点です。
不動産経営は契約の連続です。
例えば、
- 入居者との賃貸借契約、更新契約、駐車場契約、管理委託契約
- リフォーム工事契約、大規模修繕契約、借入契約、売買契約
これらは全て、オーナーの意思に基づいて締結される契約です。 しかし認知症が進み、法律上「判断能力がない」と判断された場合、こうした契約行為が自由にできなくなる可能性があります。
つまり、アパートは持っているのに、経営できない。そんな状態が起こり得るのです。
空室が出ても埋められない
例えば満室経営だったアパートで退去が発生したとします。通常であれば、募集を行い、申込みを受け、賃貸借契約を締結し、新しい入居者を迎えます。
しかし認知症によって契約能力を失っていたらどうでしょうか。場合によっては、新しい賃貸借契約を締結できない、という事態も考えられます。空室は出る。
しかし埋めることができない。収入だけが減っていく。これはアパート経営にとって非常に深刻な問題です。
建物は傷むのに修繕もできない
さらに怖いのは建物の維持管理です。築20年、30年を超えると、外壁塗装、屋上防水、給排水管更新、設備交換などの大規模修繕が必要になります。
しかし大規模修繕も契約です。 認知症によって判断能力を失えば、必要な修繕契約も進められなくなる可能性があります。建物は確実に老朽化する。空室も増えていく。
しかし手が打てない。結果として資産価値は下がり続けます。
子どもでも自由にはできない
ここで多くの方が誤解されていることがあります。 それは、「親が認知症になったら子どもが代わりにやればいい」という考えです。
しかし不動産の所有者は親です。たとえ家族であっても、親名義の不動産を自由に売却したり契約したりすることはできません。
つまり、売りたくても売れない、修繕したくてもできない、建替えたくても進められないという状態に陥ることがあるのです。
実は相続より先に起きる問題
相続対策というと、「亡くなった後の話」と思われがちです。しかし認知症は、生きている間に起きます。そして認知症になると、相続対策そのものが難しくなる場合があります。
- 家族信託をしたい
- 生前贈与をしたい
- 法人化したい
- 売却したい
そう思った時には、すでに手遅れになっているケースもあります。 私たちは相続相談を受ける中で、「相続税対策より先に認知症対策を考えるべきではないか」と感じる場面が少なくありません。
元気な今しかできないことがある
認知症対策の難しいところは、元気な時ほど危機感がないことです。 「まだ大丈夫」「その時になったら考える」そう思っている間に時間は過ぎていきます。
しかし認知症対策は、元気なうちにしかできません。 家族信託、任意後見契約、法人化、生前贈与 どの方法が正解かは人それぞれです。 ですが共通しているのは、判断能力があるうちにしか準備できないということです。
最後に
アパート経営で一番怖いものは何でしょうか。 空室でしょうか。修繕費でしょうか。相続税でしょうか。 もちろんどれも重要です。
しかし私たちが現場で見ていて感じるのは、「何も決められなくなること」の怖さです。アパート経営とは、意思決定の連続です。家賃を決める。修繕を決める。募集条件を決める。時には売却や建替えを決める。 認知症によって判断能力を失うということは、経営者がいなくなることと同じです。
だからこそ、相続対策の前に認知症対策。 「まだ元気だから大丈夫」ではなく、「元気な今だからこそできる準備がある」ということを、ぜひ知っておいていただきたいと思います。
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